研究概要 |
熱可逆なフォトクロミック化合物は多くの種類があるが、熱不可逆なものは、フルギド類、ジアリールエテン類、および我々が最近開発したビスアリールブタジエン類、などごく限られた種類しかない。ビスアリールブタジエン類について、これまでの研究で、6-フェニル-6,7-ジヒドロベンゾチオフェンおよび5-フェニル-4,5-ジヒドロベンゾチオフェン骨格をもつ化合物を最初に合成した。これらの無色体に紫外光を照射すると6π電子環状反応による開環反応でo-キノジメタン型の着色体が生成し、それが暗所室温でゆっくり退色することを示した。退色速度を高めた化合物を得るために、2-フェニル-1,2-ジヒドロナフタレンを合成した。しかしこの化合物は退色が速く、-100℃前後の低温でなくては着色を観測できなかった。そこで本年度は、2-(4-ピリジル)-1,2-ジヒドロナフタレン骨格をもつ化合物を合成し、ジヒドロナフタレン環の6,7,8位にメトキシ基を導入することと併せて、分子内電荷移動による着色体の安定化と吸収極大の長波長化を目指した。 無置換体1,7-メトキシ体2、6,8-ジメトキシ体3を合成した。これらの化合物を含むPMMAフィルムはいずれも室温以下で着色が観測された。1は最も着色性がよく、2は光照射によって二種類の着色体を生じ、3は最も高い温度で着色した。また、2-methyl-THF中における着色は、ビリジルジヒドロナフタレンの方がフェニルジヒドロナフタレンより着色温度域が広く、また相対的に高温域で着色を示した。2の二種類の着色体は、100nmほど吸収極大波長が異なっているが、長波長側に吸収をもつものの方が熱及び光に対して無色体に戻りやすく、短波長側の方が戻りにくかった。これらのことから、二種の着色体はキノジメタンの二重結合の異性体であると結論した。
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