研究課題/領域番号 |
15033228
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
松本 吉泰 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (70181790)
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研究分担者 |
渡邊 一也 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助手 (30300718)
高木 紀明 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助教授 (50252416)
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キーワード | PTCDA / Alq3 / 電子移動 / 電子状態緩和 / 二光子光電子分光 / 超薄膜 / 有機半導体 / Cu(111) |
研究概要 |
本年度は、色素分子(PTCDA)の薄膜とCu(111)表面上に吸着した色素Alq3における電子ダイナミックスをフェムト秒時間分解2光子光電子分光で研究を行った。 まず、これらの色素分子の励起状態寿命が極めて短いことが予想されるため、この実験に用いるためのオプティカルパラメトリック増幅器(OPA)を試作した。その結果、10〜20fsのパルス幅を持ち、480〜700nmの波長領域で波長可変な光パルスの生成に成功した。 これを用いて、まずPTCDAの薄膜(100nm厚)における電子状態緩和の様子を観測した。従来、この分子の薄膜では第一一重項状態(S_1)からの蛍光収率が極めて小さいことが報告されていたが、本研究では、この状態が360fsの短寿命を持つことをはじめて実測することに成功した。また、さらにS_1状態における振動状態における緩和の様子についても実時間で捉えることができた。 さらに、Alq3分子の金属上での超薄膜における電子異動ダイナミックスについても研究を展開した。この有機分子は代表的な有機半導体であり、EL素子の発光層として用いられると共に電子移送層としても用いられている。しかし、その機能の良し悪しは、単純なI-V測定から判断されており、金属電極と有機分子との界面での電子移動の詳細はまったく不明であった。そこで、Cu(111)表面上にAlq3分子を制御して蒸着し、これに時間分解2光子光電子分光を行った。その結果、単一層における負イオン状態を同定することに成功したと同時に、この寿命が31fsという極めて短いことを発見した。これは、他の研究からわかっているバルク内の電子移動速度に比べると、第一層にあるAlq3から金属への電子移動は100倍程度速く起きることを意味している。したがって、金属電極からAlq3の有機薄膜層への電子のインジェクションはかなり効率の悪いものであるといわざるを得ない。また、基板をAu(111)表面に代えると負イオン状態は測定限界を超える短寿命(10fs未満)であることも明らかとなった。Cu(111)表面との相違は、負イオン状態がCu(111)表面ではspバンドギャップ中に存在するのに対して、Au(111)表面ではギャップ外に存在するためと考えられる。
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