研究概要 |
人と生態系に影響を与える難分解性の有機物が、環境中に残留することにより様々な問題を引き起こしている。本研究では、難分解性有機物である9種類の多環芳香族炭化水素(PAH)とヘキサフルオロベンゼン(HFB)に対して、太陽光による分解除去を想定し、可視光に応答する種々の半導体光触媒を用いた分解と生成物の同定を行った。PAHに対しては、可視光応答性バナジン酸ビスマス(BiVO_4)では分解活性が低いことから、含浸法によBiVO_4の表面に銀微粒子を担持させた。Ag/BiVO_4を合成し、酸化分解の活性向上を図った。一方、HFBの分解では,ニッケル、鉛、銅の遷移金属をドープして可視光応答化を図った硫化亜鉛(ZnS)光触媒を用いて検討した。 Ag/BiVO_4によるPAH分解の活性は、未担持BiVO_4よりも格段に大きくなることが分かった。特に効果が高いのはアントラセンとベンズ[a]アントラセンに対してであった。アントラセン分解の場合、光酸化生成物であるアントロンとアントラキノンが同時に生成する様子が観測された。このことから、Ag/BiVO_4によるアントラセンの分解では、最初のアントロン生成段階が一連の反応の律速段階であることが明らかとなった。詳細な反応機構については、現在検討中である。全般的にPAH分解に伴う主な生成物はキノン類であり、比較的高い収量で同定された。 HFBは、可視光照射下で上記3種類の遷移金属ドープ型ZnS光触媒により還元され、ペンタフルオロベンゼン(PFB)を与えることが明らかとなった。特に、銅をドープしたZnS光触媒を用いると最も反応が進行し、5日間の可視光照射で40モル%のHFBが反応し34モル%のPFBが生成した。なお、銅をドープしたZnS光触媒を用いた場合のHFB分解とPFB生成は、反応が進行するにつれて反応速度が増加するという特異な挙動を示すことを見出した。
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