植物の光合成システムを模した階層型分子システムの一例として、長鎖アルキル基を有する両親媒性ルテニウム錯体と無機半導体層を交互に積層した複合多層膜をラングミュア-プロジェット法にて作製し、その膜を介した光電子移動過程を分光学的に明らかにした。 無機層にバナジン酸、有機層にジアルキルアンモニウム(DCA)あるいはジアルキルルテニウムトリスビピリジル錯体(DCRu)を用いた複合膜を作製し、その表面構造を原子間力顕微鏡にて観察した。一辺が1μmの矩形領域の表面凹凸が1nm以下となり、分子スケールで平滑な膜が得られることを確認した。無機層としてタングステン酸、モリブデン酸を組み込んだ場合にも同様の平滑性が確認された。有機層のみのLB膜では膜の安定性が不足していたが、無機層と複合化すると安定な多層膜が得られることが分かった。 光電気化学的に不活性なDCAと複合化した無機層の交流インピーダンス測定から、バナジン酸、モリブデン酸、タングステン酸はいずれもn型半導体であり、フラットバンド電位は、順に-0.1V、-0.7Vおよび-0.8V vs.Ag-AgClと求められた。 これらの無機層とDCRuとの複合LB膜中でルテニウム錯体の燐光を測定すると、無機層のフラットバンド電位が貴であるほど消光し易いことが分かった。固体薄膜中では界面のバンド屈曲効果により、マーカス理論によれば逆転領域に相当して消光速度が低下する条件でも、電子移動効率が高いことを明らかにした。また、バナジン酸とDCRuとの複合薄膜を介してITO電極から溶液中のビオロゲンへの光誘起電子移動過程をサイクリックボルタンメトリーで確認した。照射光量に応じて-0.5V vs.Ag-AgCl付近の還元電流が増加し、同時に濃青色のビオロゲンラジカルカチオンの生成が確認された。DCRu-バナジン酸膜を介した電子移動が光照射で促進させることが可能となった。
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