研究概要 |
酸化チタンの超親水性を利用すると,沸騰・凝縮などの相変化を伴う伝熱の促進を行なうことが可能である.本研究では,RFマグネトロンスパッタ法によりステンレス基材上に作成した試料を用いて,液滴蒸発実験による伝熱特性試験を行った. 伝熱ブロックは直径30mmのステンレスの丸棒であり,端面上に熱伝導グリースを塗布した上で,100mm×100mmのステンレス平板試料を載せた.注射器から単一の液滴を加熱伝熱面上に滴下し,その蒸発の様相を高速度カメラにより撮影した.液滴径2.16mmで実験を行った.落下液滴のウェーバー数は,5.175である.ウェーバー数が30以下であるので,ライデンフロスト温度を超えても,伝熱面との衝突による液滴の分裂は生じない.また,すべての実験における液滴温度は約20℃である.使用したステンレス試料は,以下の3種類である.以下の説明では,それぞれを,Case A, B, Cと記して区別する. Case A : TiO2スパッタ試料・超親水化状態,接触角5° Case B : TiO2スパッタ試料・疎水化状態,接触各52° Case C:コーティングなし,仕上げはCase B, Cと同様,接触角96° 100℃以下の蒸発時間を比べてみると,Case A, B, Cの順に蒸発時間が短い.Case Aの蒸発時間はCase Bのおよそ半分であり,Case Cのほぼ1/3である.あきらかに表面が親水化することにより,蒸発時間が短くなっている.また,濡れ限界温度に大きな違いが現れる.それぞれの濡れ限界温度はCase A:258.15℃,Case B:236.19℃,Case C:229.07℃であり,Case Aの濡れ限界温度は他の2つのケースよりも20K以上高い. 本研究により作成した酸化チタン被覆金属伝熱面は,密着性においても熱的特性においても優れた性能を示した.UV照射時の試料(接触角5°)が最も優れた伝熱特性を示すことがわかった.また,濡れ限界温度もUV照射時の試料が最大の値を示した.
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