研究概要 |
天然の脱塩素化酵素の活性中心には、B12錯体が存在することが最近明らかになった。本研究では、天然のB12依存性脱塩素化酵素の活性中心の構造をモデル化した疎水性ビタミンB12錯体([Cob(II)7Clester]C104)を電解触媒として用い、環境汚染物質である有機塩素化合物1,1-ビス(4-クロロフェニル)-2,2,2-トリクロロエタン(DDT)の分解反応を行った。可視光照射しながら基質に対して1.5F/mol通電すると、DDTの塩素分子が1〜2つ脱離した1,1-ビス(4-クロロフェニル)-2,2-ジクロロエタン、1,1-ビス(4-クロロフェニル)-2,2-ジクロロエチレンなど(DDD, DDE, DDMU, TTTB)が得られた。また電解後、錯体触媒はほとんど分解しておらず、高い耐久性を有していた。一方錯体触媒不在下では、ほとんど電解反応は進行せず、また他の錯体としてコバロキシム錯体を用いた場合は、錯体の失活が速く、効率の良い電解反応は進行しなかった。以上の結果より、疎水性ビタミンB12錯体はDDTの優れた脱ハロゲン化触媒として機能することが明らかとなった。この反応は、電気化学的手法と可視光照射を併用した光駆動型の分子変換反応であり、クリーンで高効率な省エネルギー反応プロセスと言える。 さらにクリーンで高効率な触媒系の構築を目指し、疎水性ビタミンB12誘導体を電極上に固定化した修飾電極を作成した。固定化法としては、ゾル-ゲル法を用い、錯体の大量・簡易固定化に成功した。サイクリックボンタンメトリー法により修飾電極の電気化学的性質を調べたところ、固定化した錯体に由来する明瞭なCo(II)/Co(I)に帰属される酸化還元波が観測され、電気化学活性を保持したまま錯体が電極上に固定化されていることが明らかとなった。そこで本修飾電極を用い、可視光照射しながら臭化ベンジルの定電位電解反応を行ったところ、脱ハロゲン化反応が効率良く進行し、トルエン及びビベンジルが生成した。錯体の1時間あたりの触媒回転数は千回以上であり、高い反応性を示すことが明らかとなった。
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