表面修飾半導体微粒子の光化学初期過程(光生成した電子・正孔の再結合過程等)にわける表面修飾剤の影響についての更なる知見を得るために、本特定研究では、前年度の発光アップコンバージョン光学系の構築と表面修飾CdSコロイド溶液の非時間分解発光測定(サブピコ秒レーザー励起)に引き続き、主に、電子供与体・受容体存在下での表面修飾CdSコロイド溶液の非時間分解発光測定とTG-CdS(TG:チオグリセリン)の時間分解発光測定(アップコンバージョン法)を行なった。 その結果、特に、インドール存在下でのTG-CdSやET-CdS(ET:2-ジメチルアミノエタンチオール)の非時間分解状態発光測定では、500nm付近に新しい発光が観測された。この発光挙動は、通常のCdSコロイド水溶液で観測されている、光励起で生じたCdS微粒子中の正孔とインドール間の「Exciplex」に帰属されている発光と概ね類似の挙動を示す。 前年度構築した発光アップコンバージョン光学系を用いた、TG-CdSのDMF溶液および水溶液のサブピコ秒時間分解発光測定では、前述の非時間分解発光測定では比較的弱く観測されていた短波長側の発光が、光励起直後のアップコンバージョンシグナルでは長波長側シグナルに比べて強く検出された。このシグナルの波長依存性はその減衰ダイナミクスにも現れており、短波長側のアップコンバージョンシグナルに非常に速い減衰成分が存在することを示した。この速い成分は、非時間分解発光測定では遅い発光成分(深いトラップ状態からの発光)に隠れてはっきりしない速い発光成分(浅いトラップ状態からの発光)の発光挙動を反映しており、過渡吸収の速い減衰過程に対応する電子・正孔の再結合過程に伴う発光が観測できていると考えている。
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