研究概要 |
我々は昨年度までに、可逆的なトランス/シス光異性化反応により界面化学的性質が可逆的に変化するアゾベンゼン修飾カチオン界面活性剤(AZTMA)を用いて、水溶液の粘性を可逆的に光制御することに成功している。この現象は、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)/サリチル酸からなる高粘度紐状ミセル水溶液にAZTMAを取り込ませて光異性化反応を行うことにより、紐状ミセルが形成/崩壊を可逆的に繰り返すことによるものである。本研究では、このような光誘起粘性変化現象に及ぼすAZTMAの分子構造の影響について検討を行った。疎水基末端のアルキル鎖長が2,4,6のAZTMAを紐状ミセル溶液に取り込ませて紫外光/可視光の照射を行ったところ、いずれのAZTMAの場合もトランス体を添加すると紐状ミセル水溶液の粘性はさらに増大した。また、粘性増加の程度はアルキル鎖が長いものほど顕著であった、これに紫外光を照射してシス体へと異性化させると、いずれの場合も粘度は著しく減少した。光照射による粘性変化は最適条件下では2000倍以上にも達したことから、ダイナミックな粘性制御が可能であった。もっとも効率良く粘性変化が生じるのは、アルキル鎖が4のAZTMAであった。粘性変化の機構について凍結割断透過型電子顕微鏡および動的粘弾性測定により検討したところ、トランス-AZTMAの添加は紐状ミセルどうしの絡み合いを促進して溶液の粘性を増大させるのに対して、シス体の存在下では、ミセル同士の絡み合いが生じにくい球形に近いミセルへと変化するために粘性が減少することが分かった。さらに、光電荷分離により分子の界面化学的性質が大きく変化するスピロピラン修飾カチオン界面活性剤を新規に合成し、これを用いた光誘起粘性変化についても検討を行った。
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