研究概要 |
本研究では,半導体中の電子スピンが半導体/強磁性金属界面を透過する際,その透過率が強磁性金属の磁気モーメントの方向と半導体中の電子スピンの方向との相対的関係により決定されることを利用して,半導体中のスピンの検出を行うことを目的とする.具体的には,p-GaAs基板上に「ハの字」形状を有する線幅1μm以下のFe細線を微細加工し,これに基板面内の二つの異なる方向に磁場を印加する.これにより,Feの形状磁気異方性に起因して二つの異なる単磁区磁区構造を有する残留磁化状態を実現することが出来た.実際,磁気力顕微鏡による直接観察により,所望の磁区構造が得られたことを確認した.このようにして得られた二つの磁区構造を持つ試料に対して,円偏光を照射し,GaAs基盤中にスピン偏極電子を生成する.生成されたスピン偏極遺伝子は,そのスピン偏極方向に対して大きな状態密度を有するFe細線へと優先的に伝導すると期待される.本研究では,この現象を利用してGaAs中に生成されたスピンを検出することを試みた.その結果,磁区構造の変化を反映してFe/GaAs(001)界面を伝導する光電流の明瞭なバイアス依存性の変化が観測され,バイアス電圧-0.7Vにおいて光電流の有効的スピン選択率が3.4%と見積もられた.この成果は,本研究で用いた手法によりGaAs中のスピンを検出することが可能であることを示唆している.しかし一方で,半導体から強磁性金属への電子伝導の際には,いわゆるconductivity mismatchの問題が生じないと考えられるにもかかわらず,測定されたスピン選択率は小さく,当初予測したようにFe/GaA接合の界面状態に起因するスピン反転散乱が顕著であると推察される.この問題を解決するためには,接合界面の制御が必須であると考えられる.
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