研究概要 |
強光子場における分子の多重電離のダイナミクスを理論的に明らかにすることを目的として研究を行った。分子が受ける場の変化の時間スケールは束縛電子の運動に比べてずっと遅い。したがって、変化する場のもとでの断熱的な電子状態を基礎とする、電場電離(field ionization)モデルが理解の指針になると考えられる。このモデルは、従来、原子標的に対して開発され、ポテンシャル鞍点を1個含むものであった。本研究では、分子における多中心性の効果に注目し、複数の鞍点を含むようにモデルを拡張した。強レーザー場における2原子分子の電場電離モデルを再定式化し、解離イオン対のチャネルを考慮できるように拡張した。レーザーパルスの継続時間(〜10^2fs)に結合距離が平衡距離よりも大きく伸びると、電子は振動電場による局在⇔非局在遷移を受け、分子内鞍点の近傍に励起される。そうすると、振動電場の正負両方の位相において、分子外鞍点を超えて電離が起こる。この機構に基づいて、電離が起こる距離の解離イオン対への依存性を系統的に説明することができた。N_2,NO,I_2などに関する最近の詳しい実験では、解離イオン対の電荷が(3,1)のものが(2,2)よりも短い距離で生成されることが報告されている。このモデルにおいて、分子内鞍点近傍への励起を経由して電離することで、この効果を説明した。 このモデルを直線3原子分子に拡張し、電離が起こる距離の解離イオンの組への依存性を調べた。3原子分子では2原子分子より鞍点が一つ増えることにより電離の機構ははるかに複雑になり、多数の径路が共存している。CO_2分子に1.4PW/cm2のレーザーを照射したとき、多重電離を起こす結合距離を計算し、菱川らのCO_2の実験結果と我々のモデルによる結果の比較をした。この結果、解離イオンの電荷が対称もしくは対称に近いチャネルが生成されていることが定性的に導かれた。
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