リン原子上に異なる電子的効果を与えうる2種あるいは3種の異なる置換基をもつ単座ホスフィン配位子(PR^a_2R^b・PR^aR^bR^c)が、回転等によって配位形態を変えることで、遷移金属触媒反応の触媒サイクルにおける相反する電子的要求に動的に対応するという高活性触媒システムを構築し、これを新規反応も含む様々な遷移金属触媒反応に活用することを目的として研究を進めた。例えば、パラジウム触媒反応において、電子供与基と求引基を併せ持つホスフィン配位子を用いると、電子供与基によって高められたσ-供与性が求電子種のパラジウム(0)錯体に対する酸化的付加を促進する一方で、電子求引基によって強められたπ-受容性がトランスメタル化やパラジウム(II)錯体からの生成物の還元的脱離を加速するといったように、触媒サイクルの中の異なる電子的要求にその都度応えられるものと考えた。また、π-受容性が集合化による失活からパラジウム(0)錯体を守ることで、高い触媒回転数(TON)を達成できると期待して検討した。そのような配位子として、[ρ-(ジメチルアミノ)フェニル]ビス[ρ-(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィンやビス[ρ-(ジメチルアミノ)フェニル][ρ-(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィンを合成・設計し、その効果を、パラジウム触媒を用いる重要な炭素-炭素結合形成反応であるアルケンのアリール化(溝呂木-Heck反応)やハロゲン化アリールと有機ボロン酸のクロス・カップリング反応(鈴木-宮浦反応)において調べたところ、高い触媒活性と触媒回転数が両立できることがわかった。
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