本研究では、キラルなシス-αおよびシス-β型錯体の合理的設計を行い、トランス型錯体では成しえない高効率的な不斉触媒反応の開発を目指す。所期の目的は達成されていないが、本年度にサレン触媒を用いる高エナンチオ選択的付加反応および高化学選択的空気酸化反応を見出すことができた。 キラルなカチオン性サレンクロム錯体を用いる触媒的不斉向山アルドール反応 キラルなサレンクロム錯体をルイス酸として、2-トリメチルシロキシフラン(TMSOF)とアルデヒドの触媒的不斉向山アルドール反応を達成した。この反応では、水またはアルコールを添加することにより再現性良く高エナンチオ選択性が得られることを見出した。これら添加剤は、金属アルドラート中間体のプロトン化と脱シリル化を促進し、レトロ付加反応を抑制することにより高立体選択性を実現しているものと考えられる。本反応は、有用な中間体であるキラルなγ-置換ブテノリドの効率的合成法を提供すると考えられる。 サレンルテニウム触媒を用いるo-ヒドロキシベンジルアルコールの高化学選択的空気酸化反応 サリチルアルデヒド誘導体は、配位子として有用なSchiff塩基の構成ユニットとして利用価値の高い化合物である。そこで、サレンルテニウム錯体を触媒として、入手容易なo-ヒドロキシベンジルアルコール類の空気酸化を検討した。その結果、目的の反応がエーテルや酢酸エチル中で円滑に進行し、対応するアルデヒドのみを高収率で与えることが分かった。本反応は完全に化学選択的であり、従来法においてしばしば問題となるフェノールの酸化的カップリングなどの副反応は全く観測されない。また操作性も高く、室温、空気中、および中性という温和な条件下で実施することができる。本法は、様々な置換基を有するサリチルアルデヒド誘導体の合成法として広い用途が期待される。
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