研究概要 |
α水素をもたない環状ヨードニウム塩として、1-シクロヘキセニル(フェニル)ヨードニウムテトラフルオロボラートとその3、4置換体を合成し、求核剤/塩基との反応を検討した。クロロホルム中で塩化物および臭化物との反応では、混合するとただちに超原子価付加体の吸収を長波長に示し、その吸収の減少とともにipso置換生成物が得られた反応速度はハロゲン化物の濃度にほとんど依存せず、前平衡として超原子価錯体を生成し、錯体内のリガンドカップリング機構で置換反応が進行したものと説明できる。それに対してフッ化物や酢酸塩で処理すると、ipsoとcineの2種類の位置異性置換体が生成した。この場合テトラフェニルシクロペンタジエノン存在下に反応するとシクロヘキシンが効率よく捕捉できた。3あるいは4置換体で同一のシクロヘキシンを与えるものは同じ生成物分布を示した。また、重水素同位体標識の結果もシクロヘキシンを中間体とする反応機構で説明できる。シクロヘキシンは白金錯体としても捕捉できた。この脱離-付加機構におけるipso/cine生成物比は、シクロヘキシンに対する求核付加の位置選択性によるものであり、分子軌道計算によるLUMOの軌道分布で説明できる。この電子状態は、三重結合炭素の結合角度によって支配されていることも明らかとなった。シアン化物塩の反応では、ipsoとcine生成物のほかにアリル型の置換生成物が生じた。重水素同位体標識の結果から、アリル型生成物はMichael付加-脱離によるカルベン中間体から1,2-水素移動によって生成したものと説明できる。
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