研究概要 |
神経堤細胞は、血球系細胞と異なり、背側から腹側方向に遊走し位置情報を得て適切な組織に分化することが特徴である。頭部神経堤細胞は鰓弓に遊走し、骨軟骨、舌筋等に分化して頭頸部の構築を担っている。そこで鰓弓における時空間的な神経堤細胞分化の機序を明らかにするために、全胚培養、下顎の器官培養を用いた発現誘導や、エンドセリン(ET)-1の有無による形態と遺伝子発現パターンの詳細な検討を行った。鰓弓上皮からのET-1シグナルが、胎生8.75〜9.0日に、神経堤細胞のETA受容体を介して核転写因子dHANDやDlx5/6を制御し、鰓弓の背腹軸の形態形成を担うことにより下顎を決定することを示した。即ち、第1鰓弓の間葉細胞は形態的に上顎となる性質を持っているが、鰓弓遠位部の上皮からET-1シグナルを受けることにより遠位部のみ下顎の特性を得ると考えられた。また、dHANDやDlx6の発現は、胎生9.5日以降はFGFシグナルにより誘導・維持されるが、その反応性は先行するET-1シグナルを必要とするという、シグナルリレーの存在が示された。 また、神経堤細胞の幹細胞としての特性を核移植による初期化の程度を指標に検討した。神経堤細胞培養2日目(未分化)と培養7日目(分化)で核移植後、「胚盤胞/2細胞」の発生率はどちらも5〜7割であった。この結果はES細胞をドナーとした場合に近く,同じ発生段階の分化細胞;血管内皮細胞 3割、胎仔繊維芽細胞 3割などに比べ,初期化に対する感受性が高いことが示され、初期化に対する感受性と分化の可塑性の関連について検討を進めている。
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