組織幹細胞の幹細胞ニッチにおける自己保存と分化の制御機構の分子基盤を解明するために、マウス雄性生殖幹細胞をモデル系として解析を進めた。これまでに、生殖幹細胞は、primitiveなOct-3/4(+)のものとregenerativeなOct-3/4(-)の2つsubpopulationから成り立つことを明らかにしている。このような2つのsubpopulationの成立時期を調べるために、成長過程による幹細胞活性についてそれぞれの集団について検討したところ、支持細胞の成熟時期と一致する事が示された。このことは、幹細胞ニッチの成立時期が支持細胞の成熟時期と一致する事を示唆する。また、これまで分化マーカーと考えられてきたc-kitが、すでに幹細胞の細胞質内に存在する事を突き止めた。さらに、このc-kit分子には、糖鎖修飾の様式により未分化型と分化型のものがあり、とくに未分化型のものについてはES細胞でも保存されていることが確認された。この未分化型のc-kitは、分泌型のkit-ligandと反応する事により内在化し、未分化性が維持されるが、膜型のkit-ligandと反応すると分化することが明らかとなった。つまり、幹細胞ニッチと考えられる空間には十分な分泌型kit-ligandが存在し、その未分化性の維持がなされているが、幹細胞ニッチ周囲の膜型kit-ligandと反応する事により分化へと向かうものと考えられる。一方、分化細胞は、分化型のc-kitのみを発現し、分泌型kit-ligandによるc-kitの内在化は見られなかった。
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