B細胞分化におけるマスター転写因子であるPax5は、B細胞への分化に必須な様々な分子の転写を促進するのみならず、B系列以外のさまざまな系列の細胞への分化に必要な分子の転写を積極的に抑制していることが最近明らかになってきた。このPax5遺伝子を欠損したプロB細胞は、プロB細胞としての性質を持ちながらも、T細胞をはじめとするB細胞以外のほぼ全ての系列の血液細胞へと分化する能力を持っていることが報告されている。しかしながら、この細胞を1ヶ月程度in vitroで培養したところ、多分化能を失いT細胞への分化能が完全に失われることがわかった。我々はこの長期のin vitro培養中にT細胞への分化能力を維持させるような作用を持つサイトカインを探索する目的で、培養後のT細胞再構成を指標として各種サイトカインのスクリーニングを行った。その結果、培養液中にLIFを添加した場合にのみ、in vitroでの長期培養後もT細胞への分化能力が高く維持されていることを見いだした。一旦分化能力を失ったプロB細胞に再度LIFを作用させてもT細胞への分化能は回復しなかったことから、LIFは直接T細胞系列への分化を促進するというよりは、未分化細胞におけるT系列への分化能力を維持させる作用があるものと考えられた。T細胞系列への分化を促進する重要な遺伝子としてNotch1、GATA3等があげられるが、LIF添加培養によってプロB細胞におけるNoth1とGATA3の発現に変化がみられた。以上の結果から、LIFは未分化な造血幹細胞においてT細胞系列への分化能を維持する作用があることが明らかとなった。
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