ヒト造血組織由来細胞の生体における分化能力を、以下の二つの手法を用いて解析を行った。まず、臨床の造血幹細胞移植の症例を用いて、男性ドナーから女性レシピエントへの性不一致移植を行った場合、女性レシピエントに男性由来(Y染色体陽性)の非造血細胞が存在するかについて解析を行った。これまでの報告において、女性レシピエントに存在するY染色体陽性の細胞が、経産婦の症例であれば、ドナー細胞由来ではなく、男児由来のマイクロキメリズムである可能性が指摘されてきたため、未産婦のレシピエント症例のみを検討した。その結果骨髄、臍帯血、末梢血いずれを幹細胞のソースとした場合にも、消化管上皮細胞の再生に関わる細胞がこれらの組織中に存在した。ドナー由来上皮細胞の頻度は、同種レシピエントの組織において0.4%〜1.9%で認められた。 次に、臍帯血および骨髄由来CD34陽性細胞を重症複合免疫不全マウスの新生児期に移植して、レシピエントマウスおいてヒト消化管上皮細胞の再生を検討した。ヒト臍帯血および骨髄由来CD34陽性細胞から、サイトケラチン陽性の胃・小腸粘膜上皮細胞およびインスリン陽性膵β細胞が再生された。さらに、ヒトおよびマウスの種特異的セントロメアプローブを用いたdouble FISH法を同一切片に対して施行したところ、膵臓においては、分化による再生を示唆するヒト染色体^+マウス染色体^+の細胞と、細胞融合による再生を示唆するヒト染色体^+マウス染色体の細胞がほぼ同じ比率で混在した。一方、小腸粘膜上皮細胞においては、ヒト染色体^+細胞の全てがマウス染色体を持たない、すなわち分化を示唆する細胞のみであることが判明した。以上より、ヒト造血組織(臍帯血、骨髄、末梢血)に内胚葉系組織の再生に関わる細胞が含まれるが、その機序は組織によって異なる可能性が考えられた。
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