研究概要 |
ES細胞からネスチン陽性細胞を経てインスリン産生細胞を得るプロトコールが報告されているが、この方法で得られるインシュリン陽性細胞の多くは培地中に含まれるインスリンの取り込みによるものであり、de novoのインスリン産生によるものではないことが最近明らかになった(Rajagopal et al.,2003)。我々は、ES細胞から膵への発生分化の機序を明らかにするために、試験管内でES細胞から膵への分化誘導を再現できる系を構築してきた。このためには、pdx-1遺伝子座にlacZ遺伝子をノックインしたES細胞を用いている。このES細胞を用いる利点としては、lacZ染色で、膵臓初期マーカーであるpdx-1遺伝子の発現を簡単に評価できる点である。中胚葉、外胚葉系細胞への分化に比べると、特異的誘導剤非添加条件下において、LacZ染色されるpdx-1発現細胞の出現率は非常に低い。我々は、初期の分化したマウスES細胞を、マウス胎仔の膵原基あるいは膵間葉系と共培養すると、膵幹細胞への分化誘導が促進されることを見出した。また、ES細胞から膵幹細胞への誘導には、液性因子として、TGF-β2が有効であった。さらに、内胚葉誘導因子の活性を持つニワトリのmix遺伝子をマウスES細胞内で強制発現することにより、膵への分化誘導を促進することができることを見い出した。また、TGF-β2はmix遺伝子強制発現したES細胞株においても膵への分化誘導を促進した。これらの結果は、TGF-β2とmix遺伝子の作用は別々のステップで効いていることを示唆した。正常発生における内胚葉誘導をES細胞の系でも再現可能であることを示したものである。
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