潰瘍性大腸炎は若年者に好発する慢性炎症性腸疾患の一つである。近年の免疫学、分子生物学の進歩に伴いその病態は解明されつつあるが、根本的な病因については未だ不明である。重症例では急激な炎症のため上皮の幹細胞が減少あるいは損傷を受けており、陰窩に存在する幹細胞から上皮細胞への分化・増殖が促進されないため、増殖因子を用いた治療法や幹細胞そのものを用いた治療法の開発が必要であると考えられる。 今回の研究では、hoechst33342染色を用いることにより、腸管上皮幹細胞の純化を試みた。マウス腸管より採取した腸管上皮細胞よりSP細胞を解析したところ、腸管上皮においてSP細胞の存在が確認された。腸管上皮幹細胞の多く存在する陰窩上皮ではSP細胞が高率に認められたことに対し、絨毛上皮ではSP細胞は認められなかった。ABCG2の発現はSP細胞とMP (main population)細胞の間に有意な差を認めなかった。また、c-kit、Sca-1は腸管上皮細胞では発現が認められなかった。腸管上皮幹細胞の増殖・分化に重要とされるβ-catenin、神経幹細胞マーカーであるmusashi-1の発現はSP細胞において増加していることを見いだした。これらの結果により、SP分画を用いることで、これまで困難とされてきた腸管上皮幹細胞の純化の可能性が示唆された。また、腸管上皮幹細胞において、Wntシグナルの下流にあるβ-catenin、Notchシグナルの制御因子であるmusashi-1の発現が増強していることより、これらのシグナルの協調作用が腸管上皮幹細胞の増殖、分化にとって重要であることが示唆された。
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