研究概要 |
組織幹細胞の基本的性質は、胚発生初期のepiblastやES細胞と共通の遺伝子プログラムにより維持されていると考えられているが、組織幹細胞がなぜ自分の系統以外の細胞を分化させる能力を喪失するのかは解っていない。そこで、cDNAマイクロアレイやRDA法を用いて、全能性幹細胞から組織幹細胞への遺伝子プログラム変化の実体を明らかにすることを目的とした。本年度は、ES細胞や造血幹細胞で発現する遺伝子群の中から、Hox遺伝子と共同して臓器の発生や幹細胞の増殖分化を制御するTALEファミリーホメオボックス遺伝子Meisに注目し、以下の結果を得た。LIF存在下で増殖させた未分化なES細胞と、LIFを除去し3日及び6日間分化誘導したES細胞を用いMeis遺伝子群のmRNA発現を比較したところ、分化に伴ってMeis1,Meis2の発現が上昇し、逆にMeis3の発現は低下した。Meis1は純化した骨髄造血幹細胞を含む分画に発現していたが、Meis2は検出限界以下、Meis3 mRNAは発現低下していた。Meis1およびMeis3 cDNAを強制発現させたES細胞クローンは、コントロールベクターを導入したES細胞クローンと比較して、フィーダー細胞非存在下での増殖率が高進していた。しかし、これらのFlk1陽性細胞を造血系サイトカイン存在下でストロマ綿胞と共培養したところ、血液細胞および血管内皮様細胞が分化した。これらの結果は、Meis1,3にはES細胞の増殖を促進させる効果があるが、造血系・血管系分化プログラム自体は阻害しないことを示唆する。一方、造血幹細胞に対しては、Meis1とMeis3遺伝子の強制発現効果は異なっていた。したがって、Meis1,Meis3ホメオプロテインの機能は、胚性幹細胞と組織幹細胞との性質の違いと深い関連があると推察され、責任領域の同定を進めている。
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