研究概要 |
ラクトシルセラミドは,発生,分化,癌化などにおいて特徴的な発現を示すスフィンゴ糖脂質(GSLs)の多様性を規定する生合成分岐点に位置する。我々は,ラクトシルセラミド分岐の生物学的意義の解明の一環として,C57BL6マウスの自然発症肺癌由来の3LLルイス肺癌細胞から樹立した,ラクトシルセラミドを高発現し酸性GSLsを欠損しているJ5株にSAT-I遺伝子を導入したGM3再構成細胞(J5/SAT-I)の機能的変化を検討している(1,2)。MockとJ5/SAT-I間の通常の培養条件下での増殖能に差は認められないが,J5/SAT-Iでは軟寒天上でのコロニー形成能(足場非依存性増殖)有意に上昇し,血清飢餓状態におけるアポトーシスの誘導にも明らかな抵抗性を獲得していた(1)。さらに,J5/SAT-Iでは多剤耐性タンパク(MDR-1)の発現亢進は認められないにもかかわらず,エトポシドやアドリアマイシンなどの抗癌剤に耐性を獲得しており,抗アポトーシス分子のBcl-2蛋白の特異的な上昇(Mockの約3.5倍)が認められた(2)。従って,Bcl-2蛋白の発現制御機構に関わるGM3の役割を明らかにすることによって,癌の新たな抗癌耐性メカニズムの解明に寄与できるものと期待している。また,GM3のシアル酸が硫酸基によって置換したラクトシルサルファチド(SM3)の機能を検討した。その結果,糖脂質特異的硫酸転移酵素CSTをJ5株に導入したSM3再構成細胞では,β1インテグリン遺伝子の発現が減少し,in vitroおよびin vivoの造腫瘍能が激減することを見い出した(3)。現在,これらの糖脂質再構成肺癌細胞におけるマイクロドメインの構造と機能の変化との関連を詳細に解析中である。
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