我々は、上皮性癌細胞の産生するムチンが単球/マクロファージ上に発現するスカベンジャーリセプター(SCR)のリガンドの1つとして機能しうることを示してきた。すなわち、癌組織の微小環境において癌細胞より分泌されたムチンが、浸潤したマクロファージ上のSCRに結合し、同細胞を活性化する結果、シクロオキシゲナーゼ2(COX2)が誘導され、PGE2の産生が亢進する。さらに、PGE2の受容体であるEP2受容体を介してオートクライン/パラクラインに作用し、さらなるPGE2の産生やVEGFの産生を促進する。このムチンを起点としたカスケードをより明確にするために、マウス乳癌細胞株TA3-Haと非産生株TA3-Stを用いて検討した。2つの細胞株のin vitroにおける増殖速度はほとんど同じであったが、マウス背皮下においては、TA3-Haの方が著しく早く増殖した。各々の腫瘍組織でのムチン、COX2の発現量をウエスタンブロッティングやRT-PCRで比較するとともに組織化学的手法でも検討した。TA3-Haの腫瘍組織において、ムチンの発現、COX2の誘導が認められた。組織化学的には、浸潤したマクロファージにCOX2の誘導が観察されるとともに、血管内皮細胞のマーカーであるCD31の発現もTA3-Haの腫瘍組織で顕著に認められた。また、血管新生に関与するVEGFやMMP-2 mRNAの発現も、TA3-Haにおいて有意に高いことがわかった。さらに、TA3-Ha細胞に可溶型SCR遺伝子を導入すると、皮下腫瘍における増殖が著しく低下するとともに、遺伝子非導入細胞の増殖自体にも影響することがわかった。これらの結果は、ムチンをリガンドとするSCRを介した情報伝達が、腫瘍組織形成に大きな影響を与えていることを示している。
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