糖鎖が関連する遺伝性筋症の病態を解明し、診断や治療法の開発に結びつけることを目的として研究を行った。疾患対象として、縁取り空胞型遠位ミオパチー(DMRV)とポンペ病を選択した。DMRVにおいては、近年、その責任遺伝子がUDP-GlcNAc 2-epimerase/ManNAc kinaseをコードする遺伝子であることが明らかにされたが、その病態発生機構は不明である。そこで、当該酵素の異常により障害されると予想される筋組織の糖複合体のシアル酸代謝に注目した。DMRV患者由来の生検筋組織を試料として、各種のレクチンを用いて蛍光染色を行った。その結果、患者筋では、PNA(Galβ-3GalNAcに結合)に対して、筋細胞膜で著明な染色性の増加が認められた。一方、対照筋では、PNAに対して染色性が殆どみられなかったが、シアリダーゼ処理により、染色性が著しく増強した。この現象は、レクチンブロット法による解析でも確認された。これらの解析結果から、DMRV筋細胞膜の糖複合体の糖鎖においては、シアル酸量が減少している可能性が示唆された。また、リソソームおよび後期エンドソームのマーカーであるLamp-1やLamp-3の抗体による染色を行うと、DMRVの筋細胞膜や空胞領域が強染した。この事から、DMRVでは、リソソームの機能が亢進していると考えられた。一方、ポンペ病の病因は、リソソーム性α-グルコシダーゼ活性の低下によることが知られている。そこで、オランダのグループとの共同研究により、日本人ポンペ病患者の当該遺伝子の解析を行い、新しい変異を同定した。さらに、日本人患者以外のポンペ病患者の解析結果と合わせて、本症の遺伝型と表現型の関連性を考察した。また、本症の治療用酵素薬の開発を目指して、産業技術総合研究所グループと共同し、特定の酵素合成酵素遺伝子を破壊した酵素株に、ヒトのα-グルコシダーゼ遺伝子を導入し、培地中にヒト型類似糖鎖を持つ当該酵素を発現させた。
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