本研究は脳組織内での細胞(ニューロン)の配置を決定する特異的細胞移動の分子機構を明らかにすることを目的とする。本年度は、発生中直角な方向転換を挟んで移動様式(接線移動と放射移動)を変える小脳顆粒細胞に注目し、この二相性の細胞移動を再構成できる培養系を利用して、GFPを強制発現した顆粒細胞の形態変化と移動ダイナミクスを数日間タイムラプスレーザー共焦点顕微鏡で詳細に追跡した。その結果、顆粒細胞の二相性移動は、それぞれ軸索と樹状突起に運命づけられた性質の異なる2種の先導突起が形成され、somal translocationとlocomotionと呼ばれる2つの異なる核移動ダイナミクスが駆動されて起こる事を明らかにした。さらに、ニューロン移動先の位置情報を規定する分子機構を、視床神経核の発生をモデルとして解析した。成体の視床には異なる役割を担う20個以上の神経核が存在する。発生過程で各神経核を構成するニューロンは神経前駆細胞が位置情報に従って分化運命を決定された後、移動して始めとは異なる位置において神経核となると考えられている。しかしながら神経核が形態的に認められるのは移動後最終段階以降であるため、それ以前の前駆細胞・幼若ニューロンを形態的に認識するにはマーカー遺伝子による染色が不可欠である。従って本研究においてはまずマーカーとなり得る遺伝子の単離を試みた。候補として同時に運命決定に重要な役割を果たすと考えられる転写因子をコードする遺伝子に絞った。マウス胎生11日頃の視床原基よりRNAを精製し、RT-PCRを行ったところ約40clonesの遺伝子が単離できた。現在in situ hybridizationによりこれら遺伝子の発現パターンを確認中である。
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