研究概要 |
大学の化学系の実験室で実験時のジクロロメタン,ベンゼン,トルエン,クロロホルム等の有機溶媒の揮散状況を調査した。併せて労働安全衛生法で規定されている作業環境測定を行い,以下の知見を得た。 ◆ロータリーエバポレーターを用いた有機溶媒の濃縮操作時における有機溶媒の回収率を調査した。減圧ポンプを用いて濃縮している場合,水道水を用いた冷却管での回収率は,クロロホルムで75%,ジクロロメタンではほぼ,0%であった。後段に氷や-11℃に冷却したイソプロピルアルコールを用いた冷却回収管を接続した場合でも,ジクロロメタンの回収率は80〜90%にとどまり,使用量の10〜20%が環境中に放出されていることが確認された。 ◆クロマトグラフィーでの分画操作時のクロロホルムの回収率は,溶液の移し替えや分取時の揮散,カラムでの分析時のロス等を積算すると約80%であった。 ◆ドラフトを使用している場合,ドラフトの内部と外部の濃度には明らかな差が見られ,ドラフトによる実験室環境中の有機溶媒濃度の低減効果が確認された。 ◆今回測定した実験室の作業環境濃度は,管理基準を十分満足しており,作業環境として適切に管理されていた。しかしこの研究室で,1日8時間,週5日間,3年間を過ごすと仮定した場合の生涯の発癌リスクをクロロホルムとジクロロメタンについて試算したところ,2.0〜2.5×10^<-4>となった。これは職場環境の発癌リスクとしては,決して大きいとは言えないが,無視できるリスクでもなく,注意を要することが分かった。 ◆今回の測定は,最新式のドラフトが多数設置されている実験室で実施されたこと,気温の低い冬期に測定を行っていることから,設備の少ない実験室で,溶媒の揮発が多いことが予想される夏期のデータの測定を行うことが不可欠であると考えられた。
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