研究概要 |
本研究では、超音波を用いて充填スクッテルダイト化合物の弾性特性の研究を行っている。今年度は、この物質群の内、金属絶縁体転移を示すPrRu_4P_<12>およびSmRu_4P_<12>について精力的に研究を行った。これらはそれぞれ62.3Kおよび16Kで電気抵抗の温度変化に金属絶縁体(金属非金属)に伴う顕著な異常が報告されている。前者はこの転移において磁気的な転移を伴わず、後者は伴うことが帯磁率等の結果から報告されている。この転移の機構における希土類の4f電子の役割を明らかにするために超音波により誘起された弾性歪みと強く結合する4f電子の電気的四重極モーメントの挙動から探索を行った。その結果、この転移に四重極モーメントの秩序は関与していないことを単結晶試料PrRu_4P_<12>において明らかにしSmRu_4P_<12>については多結晶及び単結晶の両試料を通じて超音波吸収、弾性定数の結果からSmの結晶場基底状態が四重項であり転移に伴う秩序変数の温度揺らぎが転移温度近傍の僅かな温度範囲で生じ、この転移が四重極モーメントあるいは電荷に関する短距離秩序の発達を殆ど伴わない臨界現象であることを明らかにした。これはこの転移が四重極秩序転移であるという他の物理量の測定結果からの提言を考慮しても、前駆現象の振る舞いの違いからこれまで報告されている他の希土類化合物の従来の四重極秩序とは著しく異なる事実をクローズアップした。PrRu_4P_<12>についてはPrイオンの結晶場基底状態の決定において我々の結果と他の物理量の報告との間に食い違いが生じている。今後、弾性定数で観測された弾性異常が何にその起源を発しているかを明らかにしていく必要がある。 重い電子超伝導を示すPrOs_4Sb_<12>の超音波実験を行ない,弾性定数(C_<11>-C_<12>)/2,C_<44>の超伝導転移温度T_c=1.85K直上でのソフト化を見いだし,局在4f^2の四極子揺らぎが存在していることを示した。また,(C_<11>-C_<12>)/2の約30Kでの超音波分散を見いだし,Sb正20面体中のオフセンターPrイオンが熱活性型のラットリング(E=198K)運動をしていることを示した。さらに,(C_<11>-C_<12>)/2の0.9Kの(110)方向の磁場依存性が約8Tで極小を示すことを見いだし,レベルクロスを示す結晶場Γ_1-Γ_4^<(2)>の歪み感受率で理解できた。これらの超音波実験から,擬四重項Γ_1-Γ_4^<(2)>の四極子揺らぎとPrオフセンタートンネルの電荷揺らぎが重い電子形成と超伝導に寄与していることが示唆される。 今年度は^3He冷凍機を製作し、40 T級パルス磁場下での超音波測定も可能になった。今後は、希釈冷凍機やパルス磁場を用いて、極低温領域・強磁場領域での実験を行い、さらに研究を進める予定である。
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