研究概要 |
ハイブリッド系導電体の開発としてπ-d相互作用に注目し、軸配位子を持つ金属フタロシアニン(Pc)を構成単位とした導電性結晶への磁性イオンの導入により伝導電子の運動が変調され、巨大な負の磁気抵抗を示すことを見出している。17年度では、この系の特徴を踏まえ、次元性、d軌道準位に注目して研究を進めた。シアノ基を軸配位子とした場合、カチオン部としてPXXを用いることで、等方的な二次元電子構造をもつ部分酸化塩が得られる。非磁性のM=Coと磁性イオンのM=Feとの比較により、低温部では明確な物性の差が観測され、M=Feでのπ-d相互作用が次元性の増加によっても維持されることが分かった。さらに、軸配位子を交換する実験を行い、一次元系においてπ-d相互作用の大きさが軸配位子のよって変化することが認められた。これは配位子場の変化によってd軌道準位が変化したためと考えられ、これまで知られていなかったπ-電子レベルと不対電子を収容したd-レベルの相対的なエネルギーとπ-d相互作用との関係についての重要な情報がこの系から得られると期待される。 また、新しいπ-d(f)系の開拓については以下に列記する。(1)フタロシアニン金属塩のアルキル誘導体化を試み、液晶性単分子磁石を開発した。(2)電導性単分子磁石を目指し、ドナー分子の電解結晶法で4f金属錯アニオンを導入する検討を進め、単分子磁石挙動の兆候が見出した。(3)直線三核および有中心長方形五核錯体の3f-4d系単分子磁石を合成し、磁化の量子トンネルの機構を提案した。(4)天然ルシフェリンに含まれるイミダゾピラジノン骨格に着目し、それらのドナー性とCT錯体形成能を明らかにした。 新規ハイブリッド物質として「光照射を利用した電荷移動錯体の局所的電気特性の制御」という観点でも研究を進め,有機分子と銀との電荷移動錯体Ag(DMe-DCNQI)_2とその類縁体Ag(DX-DCNQI)_2(X=Cl,Br,I)の光ドーピングに関して、示差熱分析、熱重量分析、X線回折、X線光電子分光、固体NMR、電気抵抗、磁化率測定等を行い、異なる光照射条件下でどのような光化学的挙動をとるかが明らかになった。
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