研究概要 |
本年度では、研究目的を達成するために以下の研究を行った。 1.有機超伝導体β-(BDA-TTP)_2SbF_6の特性とβ-(BDA-TTP)_2TaF_6の作製 β-(BDA-TTP)_2SbF_6において、シューブニコフード・ハ-ス振動が観測され、有効質量の値が従来の有機超伝導の約二倍(m_c^*=12.4±1.1m_e)であることを見出した。この結果は、超伝導体β-(BDA-TTP)_2SbF_6が電子相関の強い系であることを意味する。これを踏まえて、TaF_6塩の単結晶の作製に着手し、その構造解析に成功した。TaF_6塩の構造はSbF_6塩と同型であったが、興味深いことにTaF_6塩は常圧下では超伝導性を示さなかった.今後,この原因を解明すると共に,TaF_6塩の圧力下での伝導挙動を明らかにする予定である。 2.新規π-d系有機超伝導体の開発 同型構造を有するβ-(BDA-TTP)_2X(X=FeCl_4,GaCl_4)が圧力下で超伝導性を示すことを見出した。さらに、圧力下でのGaCl_4塩の磁気抵抗は磁場の増加と共に増加するが、FeCl_4塩の圧力下磁気抵抗測定では5T付近で急激な負の磁気抵抗が観測された。この結果は、FeCl_4塩が新しい磁場誘起超伝導体である可能性を示唆しており、今後さらにこの可能性を追求する予定である。 3.新規BDY系ドナーの改良合成法の開発 BDH-TTPのI_3,BF_4,AuI_2塩等の安定な金属状態を不安定化する目的で、BDH-TTPの一つのイオウ原子を酸素で置換したDHOT-TTPの研究を推進しており、このドナーの改良合成法の開発に成功した。DHOT-TTPのI_3およびBF_4塩は半導体的であり、また1.5Kまで金属的性質を示すAuI_2塩の構造(α型)はBDH-TTPのAuI_2塩の構造(均一にスタックしたβ"型)と異なっていた。一方、DHOT-TTPのFeCl_4,PF_6,AsF_6塩は、相当するBDH-TTP塩と同様に低温(1.5K)まで金属的性質を保持した。今後は、この化学修飾法と他の修飾法(例えば環拡大法)を組み合わせて、さらに不安定化を目指す。
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