研究概要 |
本年度は、主に以下の研究を行った。 1.新規有機超伝導体β-(BDA-TTP)_2Br_2-の開発 圧力誘起超伝導体β-(BDA-TTP)_2I_3の発見に引き続き、BDA-TTPから新たな圧力誘起超伝導体β-(BDA-TTP)_2Br_2Iの開発に成功した。この塩の静水圧下での最高T_cは、7.3K(6.5kbar)であった。さらに、c軸方向(ドナースタック間方向)に一軸圧をかけることによって、わずかなT_cの上昇が見られた[T_c=8.0K(5.5,6kbar)]。しかし、a軸方向(ドナースタック内方向)の一軸圧下では、12kbarまで超伝導転移は観測されなかった。 2.新規BDY系ドナーの合成と相転移の発現 BDH-TTPが発現する安定な金属状態を不安定化するために、(i)BDH-TTPに二つのメチル基をトランスで導入したキラルな(S,S)-DMDH-TTPと(ii)BDH-TTPの片側のジチオラン環を二つのメチルチオ基で置換したMTDH-TTPの合成に成功した。(S,S)-DMDH-TTPからは、100K付近で金属-絶縁体転移を示すAuい_2塩が得られ、MTDH-TTPからは125K付近で金属-金属転移を示すI_3塩が得られることを明らかにした。 3.(DODHT)_2TaF_6塩の構造と物性 DODHTと八面体アニオンとの塩の内、PF_6塩とAsF_6塩は圧力下で超伝導を示すが、SbF_6塩は17kbarまでの圧力下では超伝導を示さない。これらの結果を踏まえて、TaF_6塩を作製した。TaF_6塩におけるDODHTは、他の八面体アニオンとの塩におけるDODHTと同様に、β″-タイプで配列していたが、15kbarまでの圧力下では超伝導を示さなかった。今後は、圧力下での構造解析を行うことによって、八面体アニオンの大きさと超伝導の発現に関して知見を得る。
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