研究概要 |
前年度までの単結晶電界効果トランジスタ構造を利用した素子動作の実験により,有機モット絶縁体が,ある条件下で両極性の電界+B62効果動作を示すことが明らかとなった。その動作機構を明らかにするため,本年度は金属-有機モット絶縁体間の界面キャリヤ輸送に焦点をあて,特に,有機モット絶縁体と大きく異なる仕事関数を持つ金属とのショットキー界面におけるキャリヤ輸送特性の詳細な測定を行った。その結果,モット絶縁体によるショットキー接合では,界面に形成されたエネルギー障壁に由来する大きな非線形性が観測される一方で,極性反転に伴う整流性は見られないという特徴を持つことを実験的に明らかにすることができた。特に後者の特性は,参照実験として行ったバンド絶縁体によるショットキー接合で観測された明瞭な整流性とは対照的なものであった。さらに,モット絶縁体のショットキー接合の界面抵抗は,室温において,仕事関数差の小さい金属との間に形成されたオーム性接触の界面抵抗よりもはるかに大きいものであったが,温度低下とともにその大小関係が逆転し,低温におけいて電流-電圧特性のより強い非線形性を保ちながらも,その界面抵抗は,オーム性接触を下回る値を示すようになることが分かった。これらの実験事実から,金属-モット絶縁体間の仕事関数差に由来した界面付近でのキャリヤ蓄積が,その界面輸送を支配するという特異な輸送特性の一端が明らかになった。
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