本研究は金属ナノ粒子を分子性導体の構成要素と捉え、金属ナノ粒子の単一粒子の合成法、単離・精製法の確立、金属ナノ粒子どうしを電子的につなぐ配位子の設計、ナノ構造体の構築、電子・磁気物性測定という一連の研究により新たな導電物性を有する物質群の開拓を目標としている。 初年度の研究期間において、単一粒子サイズを有する金ナノ粒子の選択的合成法について重点的に検討をおこなった。配位子として分岐型のチオール誘導体を選び、それらの共存下、塩化金酸を還元してナノ粒子を得た。透過型電子顕微鏡及びX線小角散乱によりその粒径を検討したところ、最大分布径が2.6nmのほぼ均一な粒径分布を与えた。溶液状態で測定したX線小角散乱において規格化分散の値が8%と分布幅が非常に狭い事実は、本調製法はナノ粒子のサイズ選択性が非常に高く、ほぼ単一粒子で生成していることを示すものである。また、この試料の時間計測型質量分析はいくつかの配位子と金原子が490個に相当する質量数で特異的に強いシグナルを与え、490の魔法数を持つ金ナノ粒子の存在を強く示すものである。配位子の分子設計により、他の魔法数を有する金ナノ粒子の選択的合成法にも成功しており、サイズによる金ナノ粒子自体の物性の違いについて検討できる環境が整ってきた。また、金属ナノ粒子どうしを電子的につなぐ配位子の設計・合成にも着手し、物性発現可能な金属ナノ粒子からなるナノ構造体の構築に対する基礎的な知見が得られつつある。
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