本研究は金属ナノ粒子を分子性導体の構成要素と捉え、金属ナノ粒子の単一粒子の合成法、単離・精製法の確立、金属ナノ粒子どうしを電子的につなぐ配位子の設計、ナノ構造体の構築、電子・磁気物性測定という一連の研究により新たな導電物性を有する物質群の開拓を目標としている。これまで単一粒子サイズを有する金ナノ粒子の選択的合成法として、配位子として分岐型のチオール誘導体を用いることにより、最大分布径が2.6nmで分布幅の非常に狭い金ナノ粒子を得る方法を開発してきた。今年度はこの方法をさらに詳細に検討することにより、pH制御下において種々の粒径に制御できることを見出した。例えば、pH=4.3では粒径3.6nm(σ=0.3)、pH=5.1では粒径3.1nm(σ=0.3)の金ナノ粒子が生成する。一方、種々の多座配位子を分子設計し、それらを用いることにより、0.7nm(σ=0.1)、1.5nm(σ=0.2)の粒子についてもほぼ選択的に調製する方法を確立する事ができた。特に導電性をもつTTF骨格を有する分子を物理吸着型の多座配位子として用いた場合は、その平面性・剛直性を反映しこれまでに知られてない形状を有する金ナノ粒子が生成することが透過型電子顕微鏡観察により明らかとなった。この配位子は金属ナノ粒子どうしを電子的につなぐ配位子としても期待され、今後、ナノ構造体の構築へ向け重点的に検討する予定である。4nm以上の金ナノ粒子は還元法では一般にサイズ選択性をもたせることは困難である。我々は金ナノ粒子の温侵による成長機構を詳細に検討し、比較的穏やかな条件下で4.6nm(σ=0.4)の粒径の粒子を得ることに成功している。この方法はグラムスケールでも適用可能である。以上、配位子の分子設計等により、金ナノ粒子の選択的調製法が確立し、サイズによる金ナノ粒子自体の物性の違いについて検討できる環境が整った。
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