金属内包フラーレンTm@C_<82>の三種類の異性体、Pr@C_<82>、複核のイットリウム原子が内包されているY_2@C_<82>、及び複核のイットリウム原子がカーバイドを形成して内包されているY_2C_2@C_<82>の金属原子の持つf軌道電子とフラーレンケージのπ電子の間の相互作用を明らかにするために、紫外光電子スペクトルを測定した。 Tm@C_<82>では、いずれの異性体でも、Tm原子からフラーレンケージに2個の電子が移動していること、π電子の電子状態は異性体間で大きな違いがあること、σ電子の電子状態は異性体間に余り大きな違いはないことが明らかになった。 Pr@C_<82>は金属原子からフラーレンケージへ3個の電子が移動している系であるが、通常C_<82>ケージで3個の電子が移動している系では、C2v対称性を持っている異性体がメジャーであり今回測定したPr@C_<82>はマイナーアイソマーのCs対称のものであった。Cs対称性のPr@C_<82>の光電子スペクトルはメジャーアイソマーのものとは大きく異なっており、フェルミレベル直下にある電子移動に起因する構造がはっきりしないものであった。 Y_2@C_<82>どY_2C_2@C_<82>の光電子スペクトルはほぼ同一であり、これら2つの内包フラーレンは等電子構造を持っていることが明らかとなった。またこのイットリウム内包フラーレンの光電子スペクトルは以前Finkらによって測定されたSc_2@C_<84>のスペクトルとも非常によく似ており、Sc_2@C_<84>は実際は2個のSc原子がC_<84>ケージに内包されているのではなく、Sc_2C_2の形でC_<82>ケージに内包されていると考えた方が妥当であることも明かとなった。
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