研究概要 |
BEDT-TTF分子を主要構成分子とする擬2次元有機導体のうち,α相,θ相と区分される物質群について,1軸性圧縮下での電気伝導測定とX線構造解析実験の結果に基づいて,電荷秩序相と金属相の中間に電荷揺らぎ相とでも呼ぶべき中間状態があることを指摘した。また,構成分子間の個々の電荷移動積分とクーロンエネルギーの変化と,電子系全体の状態変化とを比べることにより,一見,矛盾するように見える実験結果が素直に理解できることを発見した。また,これらの類似物質β"相DODHT系物質において,電気伝導とX線構造解析によって電子構造と結晶構造の関係を解明し,BEDT-TTF系物質とあわせて電子状態を統一的に理解できることを示した。 上述の電荷揺らぎ相の構造を探るため,1軸性圧縮下のθ-(BEDT-TTF)_2CsZn(SCN)_4の非線形電気伝導を詳しく調べた。その結果,従来報告されている非線形効果を確認したことに加えて,2つの新たな現象を発見した。第一のものはメモリ効果である。非線形領域の大電流を流すと試料の線形抵抗が減少し,それが温度を200K程度まで上げるまでは記憶される。第二は,パルス電流に対して1次元系のCDW応答で見られたような容量性電圧応答を発見したことである。今後これらの結果を吟味して,電荷秩序・揺らぎ状態の電子構造とその動的挙動を探っていく。 超高圧効果については,数種類の有機導体に10GPaまでの静水圧を加え,常温での電気抵抗・熱電能および結晶格子定数の圧力依存性を測定した。その結果,5GPa程度までは線形で近似できる弾性を得たが,それ以上の圧力では非線形性が顕著になり,やがて無機物質の弾性に近づくことを明らかにした。
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