研究概要 |
1)昨年、米国フロリダ州タラハシーの強磁場実験施設を使用し、最初の中性単一成分分子金属[Ni(tmdt)_2]の磁気量子振動の観測に成功し、この物質の電子とホールからなる三次元的なフェルミ面の存在を確認した。本年は共同研究者が第一原理擬ポテンシャル法と局所密度近似(LDA)を用いたバンド構造計算を行い、求められたFermi面の断面積が、磁気量子振動測定実験の結果と比較し、角度依存性も含め実験結果を良く再現することを明らかにした。この実験により、[Ni(tmdt)_2]の電子構造に関する重要な知見が得られ、この中性単一成分分子が金属であることを実験的に完全に証明することができた。 2)配位子の硫黄原子を一部セレン原子に置き換え、硫黄原子だけの時に比べ分子間相互作用を大きくし、低温までより大きなフェルミ面を持つ中性単一成分分子金属を合成することを目指し、tmdtのSを一部Seに置き換えた[M(tmstfdt)_2](M=Ni, Au)を合成した。SPrihg-8の放射光を用いたX線粉末回折測定により、硫黄類縁体[M(tmdt)_2](M=Ni, Au)と同形であるという興味深い結果を得た。現在構造解析、物性測定用試料を集積している。 3)中心金属原子を磁性原子に置き換えた中性単一成分分子を集積し、金属結晶を構築できれば、転移温度が高い磁性金属となる可能性が期待できる。本年はコバルト原子を導入したTTF型ジチオラト金属錯体[Co(dt)_2]_2を合成し、その構造、物性を調べた。加圧成形試料による伝導度測定で室温で19Scm^<-1>,0.55Kでも室温の1/10の伝導度が得られた。又磁化率は低温までPauli常磁性的であった。構造はCo(dt)2がCo-Sで架橋した二量体構造をなし、コバルトは5個の硫黄原子に配位され、歪んだ四角錐構造をとっていた。バンド計算から三次元金属的なフェルミ面が得られ、期待される[Co(dt)_2]_2の金属的な性質と一致した。このように、珍しい二量体構造を持つ金属を得ることが出来た。
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