研究概要 |
1)配位子の硫黄原子を一部セレン原子に置き換え、硫黄原子だけの時に比べ分子間相互作用を大きくし、低温までより大きなフェルミ面を持つ中性単一成分分子金属を合成することを目指し、本年はtmdt(trimethylenetetrathiafulvalenedithiolate)のSを一部Seに置き換えた[M(tmstfdt)_2](M=Ni, Au)(tmstfdt=trimethylenediselenadithiafulvalene dithiolate)を合成した。SPring-8の放射光を用いたX線粉末回折測定により、硫黄類縁体[M(tmdt)_2](M=Ni, Au)と同形であり構造解析を行うことができた。分子間Se・・S, Se・・Se接触で硫黄体よりも短い接触距離が観測され、相互作用は強くなっていると考えられる。粉末ペレットで測定した電気伝導度はNi錯体では室温で100Scm^<-1>で50Kまで金属的な温度依存性を示した。50K以下4Kまでの伝導度の上昇は極めてわずかであった。磁化率は室温でそれぞれ1.77x10^<-4>emu mol^<-1>で,50K以上ではPauli常磁性的であった。金錯体[Au(tmstfdt)_2]は粉末ペレットで測定した室温における伝導度は11Scm^<-1>、活性化エネルギーは16meVで、磁化率は2.99x10^<-4>emu mol^<-1>であった。金錯体[Au(tmdt)_2]のスピン磁化率の測定で85Kに見られた反強磁性転移に対応する転移が[Au(tmstfdt)_2]では非常に弱いが30K付近に観測された。この結果は第一原理バンド計算からも指示される結果である。 2)[Ni(tmdt)_2]と[Au(tmdt)_2]の混晶系 最初の単一成分分子性金属[Ni(tmdt)_2]と[Au(tmdt)_2]とは同形構造をとっている。そこで(Bu_4N)_2[Ni(tmdt)_2]と(Bu_4N)[Au(tmdt)_2]の仕込量の比を変え混晶系[Ni_<1-x>Au_x(tmdt)_2]の合成を試みた。得られた混晶系についてSPRing-8の放射光を用いたX線粉末回折実験によって格子定数が系統的に変わることが観測された。またEPMA, SEMの結果をあわせると、[Ni_<0.85>Au_<0.15>(tmdt)_2]と[Ni_<0.7>Au_<0.3>(tmdt)_2]の混晶系が確実に合成できたことが確認された。今後NiとAuの比を変えることにより、バンドフィリング制御を行うことが可能であることが示された。
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