本研究では、分子性導体中の電荷秩序状態近傍での電荷の自由度に着目して、それの引き起こす特異なダイナミクス、および超伝導に関する理論的研究を行う。電荷秩序状態は、最近実験的に数多く見出されるようになってきたものであり、それに関する問題はまだ詳しく研究されていない。さらに、分子性導体では電子相関の効果も強いと考えられ、このような状況での電荷自由度に関し多くの課題が残されている 本年度は、まず数値的な計算のためのプログラムの開発を行うとともに、解析的な定式化についても平行して行なった。長距離の斥力的相互作用を仮定した拡張型ハバードモデルというモデルに対しては、平均場近似による研究や数値計算によって、電荷秩序が形成されることが分かっている。 我々はこのモデルを、いくつかの現実の物質に即した結晶格子に適用し、かつ伝導を担うキャリアが導入された場合を調べた。実際の物質においては、格子構造に起因するフラストレーションの効果がある。この状況では、電荷秩序の発達がフラストレーションによって押えられ、代わりに大きな電荷自由度のゆらぎが発生し、そのゆらぎを通して超伝導が実現する可能性がある。我々はこのモデルの基底状態および有限温度の状態について、乱雑位相近似のもとに研究を行った。その結果、パラメータ空間において電荷秩序状態の近傍に、フラストレーションの効果による今まで考えられてこなかったような、f波のトリプレット超伝導状態が実現することを見出した。
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