特異な分子特性と集合構造の混成による新しい電子系の開拓を念頭に置き、交付予定の5年間に1)新奇な分子場が期待できる特徴的な分子の探索・調製、2)特徴的分子の集合化制御による分子場の形成・評価、3)特徴的分子の固有集合状態の光誘起等による外場効果の探査、4)新奇分子場や外場効果に基づく電子系の特性挙動の把握解明の各問題の解決を図ることを目的として進めている本研究の二年目として、昨年度着手した第一の課題を継続しながら第二の問題にも踏み込んだ。前者について昨年度に選択した「候補物質」の中から大環状π電子錯体のフタロシアニン化合物、そして新たに選んだヘテロ環鎖状結合分子について特に着目し、結晶多形や集合秩序度の異なる薄膜を蒸着条件の制御により調製した。これらの薄膜の構造や特性を評価するに当たり、既存装置に今年度の設備備品費で偏光測定系を導入し機能強化した顕微分光光度計が、X線回折法や走査プローブ顕微鏡など他の構造解析手段とともに威力を発揮している。フタロシアニン化合物については価電子構造が既知のため逆光電子分光法(IPES)によりエネルギー直上の空状態の電子構造を観測し、多形に起因する分子の相対配置と分子間相互作用の違いを明瞭に反映している様子を捉え、多形に基づく電子物性の差異を解明した。一方、電子輸送型有機半導体を与えるヘテロ環鎖状結合分子の薄膜では、結晶性と非晶性の膜を作り分け、紫外光電子分光法(UPS)とIPESを用いてエネルギーギャップ直下直上のフロンティア電子構造を直接的に捉えた。その結果、電子構造からも電子輸送特性を確認し、一方、結晶性と非晶性の膜の電子構造が概ね等しいことから、薄膜中では分子間相互作用が弱くても、均一・等方性の高い特異な分子場中で安定な最低空準位に基づく電子輸送と電極界面での電子注入障壁の低下が電子物性に寄与していることを明らかにした。
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