研究概要 |
二分子のTTFが融合したBDT-TTPのラジカルカチオン塩は,対イオンの形状や大きさに関係なく,均一な積層構造を有するβ類似型ドナー配列をとる,といった強い自己凝集能を有し,そのため,ほとんどの塩が低温まで金属的な伝導性を示すことが明らかとなっている。一方,BDT-TTP骨格に適当な置換基を導入することにより,BDT-TTPとは異なる分子配列が実現できるため,TTP系導体の分子配列に関する置換基効果を系統的に調べることは有機導体の分子配列制御を目指す上で興味深い。そこで,本年度はTTPにチオメチル基を導入したBTM-TTP錯体の構造と物性について検討した。 電解法により,(BTM-TTP)_2X(X=PF_6,SbF_6,TaF_6)の組成を有する3種のラジカルカチオン塩を得た。これらのうち,PF_6塩とTaF_6塩(共に針状晶)はβ型配列をとることが明らかとなった。これらに対し,SbF_6塩(板状晶)はθ型配列をとり,ドナー分子がユニフォームに積層した構造をしている。そのドナー分子の重なり様式は,分子の長軸方向に3.0Å、短軸方向に1.6Åスリップしており,スタック内の重なり積分は対応するβ型の1/3〜1/4程度である。分子の面間距離は3.44Å、ドナーの二面角は130.7°であった。強結合近似法を用いたバンド計算によると,β型構造を有するPF_6およびTaF_6塩は擬一次元的な開いたフェルミ面をもつことが示唆された。これに対し,SbF_6塩は多くのθ型塩と同様,閉じた二次元的なフェルミ面を有することが示唆された。電気伝導度測定を行ったところ,PF_6およびTaF_6塩は室温で50-880Scm^<-1>の伝導性を有し,5Kまで金属的な温度依存性を示した。一方,SbF_6塩の室温伝導度は0.8Scm^<-1>で活性化エネルギー0.13eVの半導体的挙動を示した。
|