研究概要 |
単一成分分子性導体Ni(tmdt)_2とAu(tmdt)_2の電子構造を第一原理平面波擬ポテンシャル法で計算した。これらの2つの物質は、同一の結晶構造を持ち格子定数も互いに非常に近いが、単位胞あたりの電子数が1だけ異なっている。今回の計算で、前者は2つのバンドがフェルミ準位を横切り電子的なフェルミ面と正孔的なフェルミ面が存在する半金属、後者は、1つのバンドが半占有でフェルミ準位を横切り、一部擬一次元的な特徴を示すフェルミ面を持つ金属である事が明らかとなった。 応力・変形下での分子性固体の電子構造を知るための計算の第一歩として、有機超伝導体β-(BEDT-TTF)_2I_3の結晶構造の最適化を第一原理分子動力学の手法を用いて行ない、実験結果と非常に近い格子定数および構成分子についてのボンド長・ボンド角を得る事ができた。 分子性固体は、概して大きな結晶単位胞を有し、第一原理電子構造計算を適用する事が困難な場合がある。取り扱い可能な系のサイズと計算精度の向上のために、Projector Augmented-Wave法に基づく電子構造計算プログラムの作成を開始し、プロトタイプが完成した。 DNAの電気伝導機構を研究した。Yoo等(PRL,87,198102(2001))のナノギャップを用いた電気伝導の実験結果は電流のバイアス電圧依存性を表す係数の温度依存性が塩基種に強く依存するという興味深い結果を与えた。この実験結果をスモール・ポーラロン効果を取り入れる事により解析し電子格子散乱において非弾性的な成分が優勢であるか、準弾性的な成分が優勢であるかに応じて、この温度依存性を含めて広く輸送特性を説明する事が出来る事を示した。
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