研究概要 |
単一成分で金属となる最初の分子性導体Ni(tmdt)2の合成以来、中心金属原子あるいはリガンド部分の置換により、次々と新物質が合成されてきた。それらは、金属から絶縁体まで多岐にわたり、磁性の有無の違いも存在する。本年度は、その中でも特異な物性を示して注目を集めているAu(tmdt)2,Cu(dmdt)2の電子状態をさらに詳細に調査した。 Au(tmdt)2について、様々な温度・静水圧で測定された結晶構造において、第一原理電子状態計算を行なった。各温度での結晶構造における電子状態の変化は小さく、フェルミ面形状は、a*/2のネスティングベクトルの存在で特徴付けられる。一方、圧力の影響は、フェルミ面形状については顕著で、0.17GPaで既に上記のネスティングベクトルが消失している。また、単にフェルミ準位近傍のみでなく、価電子帯全体にわたり変化が生じている。例えば、エネルギーの関数として、断続的に有限の値を示していた状態密度が、圧力増加に伴い、連続的なものに変化していった。ただし、フェルミ準位を横切るバンドは、5.50GPaの場合でも1本のみであった。 Cu(dmdt)2については、磁性相における電子構造を詳細に調べた。その結果、フェルミ準位での状態密度の値がかなり小さいことがわかった。これは、フェルミ面が小さなポケット様のものであることと対応している。ホール面は、価電子バンドの一部がフェルミ準位に接するような形で形成され、一方、電子面近傍では、2本のバンドが交差している。これらの事は、系がゼロギャップ状態に近いことを示唆している。このような電子構造は、実験的に金属的な電気伝導が確認されていない事と関連付けることができると考えられる。また、計算で得られた磁気モーメントは、0.785μB/分子で、実験値0.84μB/分子と比べて、良い一致を示している。
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