ガラス形成能の優れた金属ガラスを得るための経験則は提唱されているが、その物理的根拠は必ずしも明らかになっていない。その一つの大きな理由は、微視的な原子配列と安定性に関する統計熱力学からの理解が不足していることによる.本研究では、結晶周期を有する合金系の相安定性・相平衡の理論計算に大きな威力を発揮してきたクラスター変分法を、トポロジカルに乱れた構造に対して拡張した連続変位クラスター変分法を応用ることにより、平衡状態図と微視構造および金属ガラスの形成能の相関を理論的に明らかにすることにある.連続変位クラスター変分法の計算は、これまで二次元系(正方格子)でしか経験がないために、本年度は、これを三次元系に拡張する計算を開始した.特に対称性の高い立法晶を最初のターゲットとし、擬化学近似法を用いた定式化を行った.又、連続変位クラスター変分法で高精度の計算を実行するためには、従来のクラスター変分法に比してさらに多くの変数を導入せねばならならず、この為には高速で信頼し得る計算機の活用が必須である.この為、並列計算機を購入しチューニングを開始した. さらに、予備計算の一つとして、二次元正方格子を対象にして短範囲散漫散乱強度の計算を行い、構成元素の原子サイズの差に伴う局所緩和を考慮したときと、そうでないときの強度分布の相違点について詳細を検討した.又、局所変位を考慮した散漫散乱強度を、多元系合金の短範囲散漫散乱強度に焼きなおして一般的な定式化を試みた.
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