研究概要 |
金属ガラスの相安定性を電子論の立場から解明することを目的とする.具体的には金属ガラスと関連する結晶化合物の電子構造を実験と理論の両面から調べ以下の研究成果を得た. 1.Zr系金属ガラスの相安定性は酸素などの極微量不純物に敏感であるとされている.そこで,極めて不純物酸素濃度が低いZr系金属ガラスを作製できるプロセスを考案し,金属ガラスの作製に成功した. 2.研究対象とすべき関連結晶化合物の特定には,金属ガラスの結晶化過程を明らかにする必要がある.特に,結晶化過程に現れる準安定化合物は重要な研究対象となる.そこで,Zr-Ni-Al系金属ガラスを対象として,示差走査熱分析とX線回折測定を用いて結晶化過程を明らかにし,準安定化合物を含めた関連化合物を特定した. 3.最も典型的な金属ガラスであるZr_<55>Cu_<30>Ni_5Al_<10>金属ガラスのフェルミレベル近傍での光電子分光スペクトルを測定して電子構造を明らかにした.フェルミレベル近傍に擬ギャップが存在しないAuのスペクトルと比較すると,Zr_<55>Cu_<30>Ni_5Al_<10>金属ガラスのスペクトルには0.1eV付近から状態密度の明らかな減少が見られる.この結果より,Zr_<55>Cu_<30>Ni_5Al_<10>金属ガラスがフェルミレベル近傍に擬ギャップを有していることが明らかにされた。 4.Zr-Ni-Al系金属ガラスの関連化合物である正方晶Zr_2NiとZrNiAlのLMTO-ASA法によるバンド計算を行い電子構造を明らかにした.正方晶Zr_2NiとZrNiAlのフェルミレベル近傍にはいずれも浅い擬ギャップが存在していることがわかった.これらの結果は金属ガラスの安定化機構に擬ギャップが寄与していることを示唆している。
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