本年は結晶化していないZr基金属ガラス中に昨年度までにわれわれが見出した電子濃度揺らぎの定量化を図るため、全真空異常小角散乱実験を実現した。安定な金属ガラスであるZrCuAlNi4元系の2つの組成において半径が約1ナノメートル程度(慣性半径換算)のクラスターが存在することが確認されていたが、その出現条件が試料の作成条件などに依存することが経験的にわかってきた。もしもこれらのクラスター的な基本構造が安定な金属ガラスの基本的な単位構造と関連しているのであれば、マクロな熱的な安定性に大きな違いがないにもかかわらず、クラスターが観察されるか否かには作成条件依存性がでるという実験結果は説明が困難である。これらの問題を実験的な観点から解明することを目的として、これまで空気パスと高分子窓材を介在させていた従来型の大気中異常小角散乱を全真空小角散乱とすることによってバックグラウンドを低減し、ごく微小な構造揺らぎに対する散乱強度も検出可能な測定システムを実現した。具体的には第3世代放射光施設であるSPring8のBL40B2においてビームライン担当者の協力のもと、試料直前のスリット系から真空試料室、後段の真空槽までを真空で結合し、窓材を排除するシステムを作成してZrK吸収端の近傍での異常小角散乱測定をおこなった。これらの結果、従来と比較して空気散乱に起因するバックグラウンドレベルの1桁低下、窓材によるBGピーク成分の完全除去が可能となり、測定精度が格段に向上した。一方、全真空化により、イオンチャンバーによる入射X線の実時間モニタ不可能になり、新たなインラインモニタを現在開発している。今回の寄生散乱低減の結果、従来のクラスター成分の起源については組成揺らぎがカップリングしていることが明らかとなり、その揺らぎの状態図上の方向について異常分散効果から示すことに成功した。
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