バルク物質では非平衡相であるアモルファスが直径約10nm以下のサイズの合金粒子においては熱力学的に安定な相として出現すること、および、これは共晶温度(T_<eu>)とガラス転移温度(T_g)が異なる粒子サイズ依存性を示すために、合金ナノ粒子においては、T_g>T_<TSM>>T_<eu>のような温度領域が形成(バルクではT_<eu>>T_g)されるためであることが明らかにされつつある(ここでT_<TSM>は熱力学的に安定なアモルファスが形成される温度)。T_gの粒子サイズ依存性に関しては、その物質の凝集エネルギーと密接な関係がある。合金ナノ粒子においては表面効果のために凝集エネルギーが低下することによってT_gも若干低下すると考えられる。合金のT_<eu>に関しては、表面の他にも界面とそれによる歪効果などによってT_gよりも大きい粒子サイズ依存性を示すと予測される。また、これらの効果によって合金ナノ粒子においては固溶度も大きく増加することが確認されている。本研究では、合金ナノ粒子における固溶度増加と熱的安定なアモルファス形成の関連性を調べるために、2固相共存状態にある合金ナノ粒子の両相における固溶度変化をAu-Ge合金ナノ粒子を用いて定量的に調べるとともに、熱力学的に安定なアモルファスが形成される粒子サイズを調べた。その結果、直径20nmより大きい粒子においては2固相共存状態にある粒子の各相での固溶度増加は少なかった。しかし、サイズ低下とともに固溶度は次第に増加し、粒子のサイズが直径約10nmまで小さくなると各相での固溶度は数10at.%まで増加した。一方、粒子の直径が数nmまで小さくなると2相共存状態のかわりにアモルファスが形成されることが確認された。これは2固相共存状態にある合金ナノ粒子においては、粒子サイズ低下に伴い相界面が各相に大きな歪を発生させ、格子のソフト化が生じるためと考えられる。この格子のソフト化は大きな固溶度増加とT_<eu>低下を引き起こす。
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