本研究代表者は、これまで「金属・合金の相図におよぼす系のサイズ効果」について系統的な研究を行なってきた。その中で、直径約10nm以下のサイズの合金粒子においては、バルクな物質では非平衡相として存在するアモルファスが熱力学的に安定な相として出現する系がありうることを実験的に明らかにしている。本研究では、その出現条件を調べる目的で、Au-Sb系における合金相形成を調べた。Au-Sb系は中間相としてただ1種類の化合物(AuSb_2)をもち、金およびアンチモンの相互固溶度が小さい合金系である。実験は、透過電子顕微鏡の中で、その場蒸着機能付試料ホルダーを用いておこなった。 Sb-10at%Au組成近傍の10nmサイズの合金粒子は、純アンチモンと同じ斜方面体構造をとる。、EDX分析の結果は、金は合金粒子中にほぼ均一に分布していることを示している。従って、粒子はSb-10at%Auの固溶体合金であると判断される。バルクなアンチモン中への金の固溶限はほぼ0at%であるので、アンチモン合金ナノ粒子では、金の固溶限は大幅に増大することが分かる。 また、Au-15at%Sb組成の5nmサイズの合金粒子は、純金と同じ面心立方構造をとる、EDX分析の結果は、先と同じく、アンチモンは合金粒子中にほぼ一様に分布していることを示している。バルクな金中へのアンチモンの固溶限は約1.2at%と報告されているので、このことから、金合金ナノ粒子ではアンチモンの国溶限は10倍以上も増大していることが分かる。さらに、こうした固溶限の増大は、金、アンチモンのterminal solid solutionのみならず、中間相AuSb_2においても確認される。この傾向は、Au-Sn系やSn-Bi系での傾向と一致している。このことから、固溶限の増大は、広範な系と相とで生じる一般性の高い現象であることが分かる。一方、共晶組成近傍(Au-40at%Sb)の6nmサイズの合金粒子においては、バルクでみられるα-Au固溶体(結晶)とAuSb_2化合物(結晶)の二結晶相共存組織は観察されず、これにかわって、サブナノメートルにまで微細化されて激しく歪んだ構造があらわれる。これは、アモルファスを想起させるほどに激しく乱れた構造である。共晶組成近傍のみで特徴的にこうした構造が現れる事実は、ナノサイズ化に伴う液相の安定化が、このような結晶の非周期構造化の原因であることを示唆している。
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