本研究者は、これまでに、適切に選ばれた組成を有する共晶系合金ナノ粒子においては、融体の急冷ではなくて徐冷(放冷)によってもアモルファス固体が得られることを明らかにしている。この現象の原因を究明するために、共晶温度に対するサイズ効果、ならびに、合金ナノ粒子において徐冷によってもアモルファス固体が得られる条件、を調べた。まず、電子顕微鏡法を用いて合金ナノ粒子ににおける共晶温度の低下を粒子サイズの函数として調べた。合金の共晶温度は純物質の融点よりも強い粒子サイズ依存性を持つことがわかった。この一つの理由としては、共晶合金における異相界面の効果が挙げられる。表面エネルギーのほかに二固相異相界面エネルギーの効果によって液相単相状態が安定され、その結果、共晶温度は純物質の融点に比べ、強い粒子サイズ依存性を示すと考えられる。次に、ガラス遷移温度Tgの粒子サイズ依存性を調べた。室温で形成したAu-Sn系アモルファス合金ナノ粒子を加熱するとアモルファス中に見られるソルト・ペパーコントラストはその濃淡位置をゆるやかに変動させていた。さらに粒子を加熱すると、結晶化することなく液体に変化した。また、室温にまで冷却(徐冷)するとそのままアモルファスに戻った。ここで、アモルファスが液体に変わる温度範囲はサイズが異なる二つの粒子(直径5.5nmと4nm)において殆ど差がなかった。これより、Tgは粒子サイズにほとんど依存しないことが分かった。以上より次の考察が導かれた。粒子サイズの減少とともに、共晶温度は低下し、ある臨界粒子サイズにおいてガラス遷移温度Tgにいた。この臨界サイズより小さなサイズの合金ナノ粒子では、Tg>Tとなる温度範囲にわたっては、アモルファス固体が出現する。これが、合金ナノ粒子において徐冷(放冷)によってもアモルファス固体が形成される原因である。
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