研究概要 |
アミロイド繊維は、アルツハイマー病や狂牛病の原因物質として注目されているが、その形成機構は謎に包まれている。繊維は特殊なアミノ酸配列を持つ一部の蛋白質のみが形成すると考えられていたが、最近では、病気とは関係のない多くの蛋白質やポリベプチドに対しても繊維形成が見出されている。しかも、それらの繊維は、蛋白質の種類にかかわらずほぼ共通した構造を示す。代表者は、3次元積分方程式論を用いた解析結果に基づき、「溶媒分子が動き回ることのできる空間の容積をできる限り大きくする(並進のエントロピーを増加させる)ために、蛋白質が高度に秩序化された非常にリジッドな構造を作らされた結果、アミロイド繊維が形成される」という新しい描像を与えた。 疎水性溶質の水和構造と溶質分子間相互作用が、溶質サイズにどのように依存するかを解析した。水分子に対して多極子モデルを採用し、分子性流体用積分方程式論を用いた。溶質分子直径をd_M、水分子直径をd_Sとする。d_M/d_Sが1から2になると水和構造は劇的に変化する。d_M/d_Sがさらに大きくなると水和構造も変化し続け、10を超えて初めて広がった疎水性表面近傍における水和構造に収束する。蛋白質分子の疎水性部位の大きさは、ちょうどその変化し続ける領域にあり、単純な取り扱いは困難である。メタンは小さすぎて蛋白質分子の疎水性部位のモデルにはなり得ないし、広がった疎水性表面もモデルとして不適当である。 部分電荷がプラスの溶質原子(C)、マイナスの溶質原子(A)、ゼロの溶質原子(Z)を考え、C-C、C-A、A-A、Z-Z間の平均力のポテンシャル(PMF)を解析した。純水中と塩(NaCl,KCl,KBr,KI)水溶液中を考え、水のモデルにはSPC/Eを採用し、DRISM理論を用いた。塩を加えると、C-C、A-A間のPMFは引力側に大きくシフトし、顕著に短距離化する。Z-Z間のPMFは若干引力側にシフトする。C-A間のPMFは斥力側にシフトし、顕著に短距離化する。Z-Z間のPMFのシフトは、アニオンまたはカチオンのサイズが小さいほど大きくなる。C-C間のPMFのシフトは、アニオンのサイズが大きいほど大きくなる。溶質原子近傍あるいは2つの溶質原子間に挟まれた領域内における水分子やイオンの微視的構造をも解析し、PMFとの関連性について考察した。得られた成果は、蛋白質の立体構造や溶解度に及ぼす塩効果に対する実験結果を説明するための第一歩となる。
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