蛋白質と周囲の水分子との相互作用、特に反応途中における相互作用のダイナミクスを時間分解で明らかにするための研究を行った。また、蛋白質の反応を物理化学的に研究するため、新しい検出手法の開発を行い、本年度は以下のような成果を得た。 1、拡散係数は、水分子との分子間相互作用の情報を含む有用な物理量である。先年度に開発したこの物理量の時間変化を測定する手法を用い、蛋白質の折りたたみ過程の遷移状態における分子間相互作用の時間変化を検討した。チトクロムcの折りたたみ過程の拡散係数変化と局所的構造変化速度定数には、1桁以上の違いが見られ、まず水素結合ネットワークの組み換えがおこり、α-ヘリックスの主な部分が完成すると説明された。また、蛋白質ダイナミクスを引き起こす共通で基本的な遷移状態が存在する可能性を示した。 2、光感受性蛋白質の光吸収では観測されない構造変化を、拡散係数変化ダイナミクスとして検出した。光感受性蛋白質としてフォトトロピンを用い、そのダイナミクスを調べた結果、分子構造の変化の度合いは、リンカー部分の付随したサンプルの方が大きいということが分かった。さらに、この拡散係数が時間とともに変化している様子を捉えることに成功し、光励起後2msで拡散係数変化を伴う構造変化が、リンカー部分で起こっているがわかった。これはαヘリックスが壊れる過程に対応していると解釈した。 3、光照射を受けた場所でのダイナミクスを明らかにする新しい時間分解分光手法を開発した。ガラス内部にポンプ光を集光した後のプローブ光の空間形状をCCDカメラで測定し、この形状より屈折率分布を求めることで、中心の屈折率が急激に小さくなり、外部へと進行していく音波の発生を示すことができた。
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