研究概要 |
本年度は、レプリカ交換分子動力学法(REMD)を様々な系に適用した。まず、水中とエタノール中の小ペプチドの2次構造形成傾向性を比較し、アルコールがペプチド内の静電相互作用を強め、2次構造形成を促進することを示した。また、アミロイド病を引き起こすβ2ミクログロブリンのペプチドフラグメントのREMDシミュレーションでは、βヘアピンの形成がアミロイド形成と深く関わっていることを示唆する結果を得た。更には、X線1分子測定の実験の系を鑑み、末端を固定することがタンパク質の立体構造の安定性に与える影響を調べた。次に、REMD以外では、マルチオーバーラップ法とマルチカノニカル法を合体させた新しい拡張アンサンブル法を開発した(S.G.Itoh and Y.Okamoto, in preparation)。これによって、2つの状態間の遷移状態の情報を温度の関数として調べることができるようになった。また、一昨年に開発したマルチバーリック・マルチサーマル法をアラニンジペプチドの高圧実験の系に適用し、部分モルエンタルピーと部分モル体積が実験とよく一致することを示した(H.Okumura and Y.Okamoto, in preparation)。最後に、広く使われているAMBER、CHARMM、OPLS、GROMOSなどの標準的なエネルギー関数(力場)が蛋白質の立体構造予測が可能な程の精度を持つか否かを調べてきたが、我々の結論は既存のどの力場も完璧なものはないというものであった。特に、主鎖のねじれエネルギー項を少し変化させると、αヘリックスやβシートなどの2次構造の形成傾向が大幅に変化することを昨年示した。よって、本年度は新しい主鎖のねじれエネルギー項を提唱した(Y.Sakae and Y.Okamoto, submitted)。
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